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2026-05-30

クルーズ船が関係した感染症が注目されています。医療者でもハンタウイルス感染症がコロナのようなものにならないか心配です。どのように考えたらよいでしょうか?

回答

クルーズ船で何が起きている?

オランダ船籍のクルーズ船「MV Hondius号」は、2026年4月1日にアルゼンチンのウシュアイアを出港。南極、サウスジョージア島、トリスタンダクーニャ、セントヘレナ島、アセンション島などを経由しながら南大西洋を北上するルートを航行していました。

4月6日に最初の発症者(アルゼンチン等に滞在歴のある乗客)が報告され、4月11日に船内で死亡。その後、周囲の乗客や乗員にも同様の重症呼吸器症状を呈する者が相次ぎました。5月2日、最初の患者のPCR検査でハンタウイルスが確認され、オランダ当局から欧州の早期警戒情報システム(EWRS)およびWHOへと通知されました。さらに、5月6日にゲノム解析によって、ハンタウイルスの亜型のひとつであるアンデスウイルスと特定されました。

5月10日の時点で、確定および疑い例を含めて計10名の感染(あるいはその疑い)が報告されており、そのうち3名が死亡しています。

ハンタウイルスとは

ハンタウイルスとは、ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属に分類されるウイルスの総称です。主に「ユーラシア大陸型」と「南北アメリカ大陸型」に大別され、前者は腎症候性出血熱(HFRS)を、後者はハンタウイルス肺症候群(HPS)を引き起こします。MV Hondius号で発生したアンデスウイルスは、後者の「南北アメリカ大陸型」に該当します。

特に南北アメリカ大陸型(HPS)は、致死率が30〜50%と極めて高いことが大きな特徴です。

感染経路と自然宿主

このウイルスは特定の齧歯類(アカネズミ、ドブネズミ、シカネズミなど)を自然宿主としています。ネズミ自身は発症しませんが、唾液・尿・糞便中にウイルスを排出し、それらにヒトが直接触れたり、乾燥した排泄物を吸入したり、あるいは稀に噛まれたりすることで感染が成立します。

ヒトからヒトへの感染は?

基本的にヒトからヒトへの感染は起こりません。ただし例外的に、今回問題となっているアンデスウイルスには報告があります。いずれも患者との濃厚曝露(家族や医療従事者など)によるものとされています。

今回のクルーズ船内にネズミがいたかどうかは今後の調査を待つ必要がありますが、特殊な閉鎖空間では脅威となるのかもしれず、公衆衛生上の教訓かもしれません。

地理的な拡散が起きにくい理由

ハンタウイルスは、種類ごとに特定のネズミが宿主として決まっています。そのため、そのネズミが生息していない地域にウイルスが持ち込まれたとしても、自然界での感染サイクルが成立することはありません。

基本的にヒトからヒトへの感染は起こらないのですが、ただし例外的に、今回問題となっているアンデスウイルスは、数あるハンタウイルスの中で唯一「ヒトからヒトへの伝播」が確認されている亜型です。ただし、アンデスウイルスには報告があります。いずれも患者との濃厚曝露(家族や医療従事者など)によるものとされています。

クルーズ船でなぜ広がった?

アンデスウイルスは、数あるハンタウイルスの中で唯一「ヒトからヒトへの伝播」が確認されている亜型です。加えて、クルーズ船という閉鎖空間であり、密接かつ長時間の接触(唾液、呼吸器分泌物、汚染された寝具への接触など)が船内での連鎖的な感染に繋がったと考えられています。

今回のクルーズ船の事例は、ハンタウイルスの特性や変異というよりは、むしろ感染が一気に拡大しやすい「場・出来事・環境」、いわゆるスーパースプレッディング・イベント(SSE)として注目されます。

空気感染の可能性を示唆しますが、もし従来のアンデスウイルスが空気感染しているのであれば、すでに大規模な都市レベルでのアウトブレイクが発生しているはずです。しかし、これまで確認されていません。もちろん、ウイルスが空気感染へと変異する可能性は、稀ではありますが否定しきれないため、疫学調査の結果を注視する必要があります。

日本国内での感染拡大リスク

日本国内において、ウイルスを保有しうる野生ネズミの生息は極めて限定的であり、国内で感染が拡大する可能性は非常に低いと言えます。ただし、国際航路を通じて港湾地域にネズミが入り込むリスクには注意が必要です。

参考:梅田奇病(1960年代・大阪)
1960年代に大阪で流行した「梅田奇病」は、海外から持ち込まれたドブネズミによるソウルウイルスの伝播と考えられています。しかしその後の国内発生は、実験用ラットからの感染報告に留まっています。

コロナのようなパンデミックになる可能性は?

ハンタウイルスは以前から知られた病原体であり、患者発生を早期に探知できれば、感染拡大の封じ込めは比較的行いやすい感染症と考えられています。患者発生に気づきさえすれば、その後の封じ込めは比較的容易な感染症です。

コロナ・インフルエンザとの違い
飛沫・空気感染で急速に広がる性質はない
ヒト→ヒト感染は基本的に成立しない(アンデスウイルスは例外)
宿主ネズミが生息しない地域では感染サイクルが成立しない
よほどの変異が起こらない限り、パンデミックに至る可能性は考えにくい

参考資料

1.World Health Organization. WHO Rapid Risk Assessment: Hantavirus outbreak caused by Andes virus, Global, version 2.0. 17 May 2026. 
https://www.who.int/publications/m/item/who-rapid-risk-assessment---hantavirus-outbreak-caused-by-andes-virus--global-v.2

2.Avšič-Županc T, Saksida A, Korva M. Hantavirus infections. Clinical Microbiology and Infection. 2019;21S:e6–e16.  
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1198743X15005364

3.World Health Organization. Hantavirus. Fact sheet. 2026. 
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hantavirus

4.Toledo J, Haby MM, Reveiz L, et al. Evidence for human-to-human transmission of hantavirus: a systematic review. Journal of Infection and Public Health. 2021. 
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9574657/

5.Clement J, LeDuc JW, McElhinney LM, et al. Wild rats, laboratory rats, pet rats: global Seoul hantavirus disease revisited. Viruses. 2019;11(7):652. 
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6669632/

6.国立感染症研究所. 感染症の話:腎症候性出血熱のお話. 感染症週報 1999年第48週(11月29日~12月5日)
https://www2.pref.iwate.jp/~hp1353/kansen/hanasi/415.pdf

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