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2026-09-14

途上国への渡航帰りの発熱患者対応で、日常診療に加えてマラリアなど注意すべきポイント、疾患、対応などについて教えてください。

【回答】

最優先で「熱帯熱マラリア」を警戒・除外してください。見落とすと数時間〜数日で死亡に至る緊急の対応を要する疾患です。流行地からの帰国後1〜2週間以内の発熱は、速やかに感染症指定医療機関や近隣の感染症科へ直接相談・紹介を検討しましょう。

一方で、"渡航関連"と決めつけず、国内で一般的な感染症(インフルエンザ、新型コロナ、溶連菌など)の同時評価も不可欠です。

1. 熱帯熱マラリアの危険性と流行地・潜伏期

7〜8月の夏季休暇シーズンは海外渡航者が増え、プライマリケア外来で渡航帰りの発熱患者に遭遇する機会が増加します。発展途上国からの帰国者の2〜3%が発熱するとのデータもあり、その中に生命に関わる重症疾患が潜んでいます1-4)。

・医療緊急事態としての熱帯熱マラリア
  ・マラリアは世界3大感染症の1つで、年間2億人以上が感染し約66万人が死亡しています。
  ・特に熱帯熱マラリアは、適切な初期治療が遅れると、数日あるいは数時間で重症化(脳マラリア、ARDS、急性腎障害、DICなど)し、致死的になります。
  ・日本国内でも輸入感染症として毎年数十例(コロナ禍前は50〜100例、以降も約30例)の届出があり、渡航者増加に伴い今後も増加が予想されます5,6)。

ー流行地の確認ツールとして、厚生労働省検疫所 FORTH 5)や、米国 CDC Travelers’ Health 6) をおすすめします。

・流行地と潜伏期間の整理
マラリアの種類主な流行地域潜伏期間の目安臨床上の注意点
熱帯熱マラリアサブサハラアフリカ(約7割)、オセアニア、東南アジア、中南米など1〜2週間(通常7〜14日)最も警戒すべき重症型。直近2週間以内の滞在歴があれば必ず鑑別に残す。
三日熱・卵形・四日熱・サルマラリア(P. knowlesi)同上10日〜数ヶ月、
時に1年以上
三日熱・卵形は肝細胞内で休眠するため、数ヶ月〜1年以上前の渡航歴でも発症の可能性がある。

2. 一般外来で実施可能な初期検査のポイント

マラリアの確定診断は「血液塗抹標本(ギムザ染色)」による原虫確認ですが、一般的なクリニックで即座に行うのは困難です。そのため、日常的な採血項目や迅速キットを以下のように活用してリスクを評価します。

・一般的な採血項目からマラリアを想起するトリガー
  ・血小板減少(重要な指標):マラリア患者の多くで認められます。渡航帰りの発熱で血小板が減少(特に15万/μL未満)していれば、強くマラリアやデング熱を疑います。
  ・溶血性貧血の所見:原虫による赤血球破壊のため、LDH上昇、間接ビリルビン優位の黄疸、貧血の進行が見られます。
  ・その他:CRPの上昇、白血球数は正常〜低下(上昇しないことが多い)などが特徴です。

・マラリア迅速診断キット(RDT)の利用可否と注意点
  ・自院での常備確認:RDT(イムノクロマト法を用いた簡易キット)は数十分で結果が出ますが、一般的なクリニックでは常備していないケースが大半です。
  ・陰性でも100%除外は不可:仮にRDTを施行して「陰性」だったとしても、発症初期など原虫血比率が低い場合は偽陰性になります。
   熱帯熱マラリアは100%否定できないため、疑わしければ陰性であっても専門医への紹介が必要です。
  ・自院にキットがない場合:検査センターへの外注は結果が出るまでに日数を要し、熱帯熱マラリアの進行スピード(数時間で重症化)に間に合いません。
   外注検査は提出せず、速やかに「検査・診断が即日可能な専門医療機関」へ転医・紹介してください。

3. プライマリケア外来で確認・評価すべき3つのステップ

① 詳細な渡航歴の聴取(VFRに特に注意)
渡航先・期間・時期を確認し、各疾患の潜伏期間と照らし合わせます。
VFR(Visiting Friends or Relatives:里帰り出産や親族訪問など)の旅行形態は、観光客向けの安全なルートやホテルから外れ、現地の生活環境に深く入るため、感染リスクが著しく高くなります。厳重な警戒が必要です。

② 「国内の一般的な疾患」の同時評価
熱帯感染症を疑うと同時に、国内でも遭遇する一般的な感染症のスクリーニングを並行して行います。症状に応じた以下の鑑別が重要です。
・咽頭痛・関節痛など:インフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)、溶連菌性咽頭炎、ヘルパンギーナなど
・消化器症状:一般的な感染性腸炎など
・泌尿器症状:尿路感染症など
・皮疹:手足口病、水痘、薬疹、アトピー性皮膚炎の増悪など
・性交渉歴:性感染症(急性HIV感染症の初期症状などを含む)

③ その他の主な渡航関連感染症(参考)
すべての診断をプライマリケア医が担う必要はありませんが、マラリアが否定的な場合の鑑別として念頭に置きます。
・デング熱・チクングンヤ熱・ジカウイルス感染症:アジア・中南米・カリブ海地域からの帰国者で頻度が高い蚊媒介感染症。
・リケッチア症(日本紅斑熱・つつが虫病など):国内外のアウトドア活動(草むらなど)で感染するダニ媒介感染症。
・レプトスピラ症:保菌動物の尿に汚染された水・土壌(川遊びやラフティング等)から経皮感染する人獣共通感染症。
・腸チフス・パラチフス:下痢を伴わない発熱だけのことも多い。南アジア(インドなど)での感染例が多数。
・麻疹:世界的に流行中。カタル症状(咳・鼻汁)や癒合性皮疹がある場合に強く疑う。
・狂犬病:海外で動物咬傷歴がある場合、渡航前・後の狂犬病ワクチン接種歴を踏まえた迅速な初期対応(暴露後ワクチン接種など)が必須。① 詳細な渡航歴の聴取(VFRに特に注意)

4. 相談先と紹介のタイミング

熱帯熱マラリアが疑われる場合、あるいは渡航関連の発熱で診断に苦慮する場合は、速やかに以下の専門機関へアクセスしてください。

1.特定感染症指定医療機関・第一種/第二種感染症指定医療機関
・各都道府県が指定する、専門病床や検査体制を持つ病院です7)
  臨床的な鑑別診断の相談や、緊急紹介が必要な場合は、これらの医療機関の感染症科へ直接相談・紹介するのが最も迅速です。

2.管轄の保健所
・マラリア、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症(4類)、腸チフス・パラチフス(3類)などは、すべて感染症法に基づく全数報告対象です。
・診断確定時はもちろん、診断がつかない「疑い例」の段階でも、行政検査(デング、チクングニア熱PCRなど)についての相談、行政的な届出の要否や、搬送先医療機関の調整が必要な場合に相談窓口として機能しています。

参考資料


1.FORTH旅行から帰って  
2.CDC Yellow Book - Post-Travel Evaluation of the Ill Traveler
3.Fever in the Returning Traveler 
Paquet D, Jung L, Trawinski H, Wendt S, Lübbert C: Fever in the returning traveler.
Dtsch Arztebl Int 2022; 119: 400–7. DOI: 10.3238/arztebl.m2022.0182
4.The Returning Traveler - American Family Physician (AAFP)
5.FORTHマラリアに注意しましょう  
6.CDC Traveler’s Health 
7.感染症指定医療機関の指定状況 厚生労働省.

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