Q&A
2024-12-02
マイコプラズマ感染症の診断と治療
【質問】
マイコプラズマ感染症に関してです。
日本感染症学会でも声明が出ていますので、JPCAでも早めに動いてもイイのかもしれません。 https://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=680
目的としては、抗菌薬の適正使用 特に成人でのニューキノロン系抗菌薬関連です。日本感染症学会ではこの件についても正しく懸念を述べられていますが、日本呼吸器内科学会ではNQ系抗菌薬を推す流れもあるかもしれませんが、適切ではないと思います。 また臨床的には今回は聴診で異常を見つけることができる事例が比較的多い印象です(急性期・基幹病院というセッティング)。一方で、聴診をしていない医療者が多いのも実感です(研修医には指導していますが、それでもスルーされていることもあります)。検査の不確実さと診察や説明の重要性をJPCAから改めて発信できるチャンスかもしれないと思っています。当院では以前から説明のためのパンフレットは使っています。診断には、病院セッティングとして胸部CT(低線量)は有用ではあるのですが、一般的ではないと思います…。
日本感染症学会でも声明が出ていますので、JPCAでも早めに動いてもイイのかもしれません。 https://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=680
目的としては、抗菌薬の適正使用 特に成人でのニューキノロン系抗菌薬関連です。日本感染症学会ではこの件についても正しく懸念を述べられていますが、日本呼吸器内科学会ではNQ系抗菌薬を推す流れもあるかもしれませんが、適切ではないと思います。 また臨床的には今回は聴診で異常を見つけることができる事例が比較的多い印象です(急性期・基幹病院というセッティング)。一方で、聴診をしていない医療者が多いのも実感です(研修医には指導していますが、それでもスルーされていることもあります)。検査の不確実さと診察や説明の重要性をJPCAから改めて発信できるチャンスかもしれないと思っています。当院では以前から説明のためのパンフレットは使っています。診断には、病院セッティングとして胸部CT(低線量)は有用ではあるのですが、一般的ではないと思います…。
【回答】
プライマリケアにおける診断と治療のポイント
マイコプラズマ感染症はほとんどが上記同症状のみの軽症で自然治癒し、不顕性感染であることも多いです。肺炎/重症の場合には、抗菌薬が必要とされます。
症状と所見
発熱、頭痛、倦怠感と鼻汁や痰を伴わない乾性咳嗽が特徴とされ、咳が長引くことがあります。しかし、幼児の場合には最初から湿性咳嗽となることが多くなります。青年においても後期には湿性咳嗽になる傾向もありますが、細菌感染症の合併や頑固な咳が続く場合には、百日咳の可能性も検討します。また、マイコプラズマ感染症は、中耳炎や扁桃炎、皮疹(特に多形滲出性紅斑)など肺外病変があることが多く、上記の症状以外にこれらがある場合には、疑う必要があります。
マイコプラズマ肺炎の聴診は、一般的には細菌性肺炎の湿性ラ音のような特徴的な呼吸音を聴取しない(6割ほどで異常呼吸音そのものがない)のが特徴ですが、3割ほどでlate inspiratory cracklesが聴取されることがありますので、特に流行期における聴診(特に背部)は鑑別診断に役立ちます。1)
臨床での検査
感度/特異度ともにLAMP法/リアルタイムPCR法がもっとも信頼できます(ただし、外注の場合には数日かかります)。イムノクロマトグラフィー法(迅速マイコプラズマ抗原定性検査)も可能ですが、感度が高くないため、症状/身体所見などで検査前確率を見極めたうえで実施し、その結果に対しては総合的に判断することが必要になります。
・急性期の診断法(実際の臨床での検査)
イムノクロマトグラフィー法(迅速マイコプラズマ抗原定性検査)
咽頭ぬぐい液を使用、検査時間約15分
LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法
咽頭ぬぐい液または喀痰
リアルタイムPCR法(マクロライド耐性遺伝子変異の検出可)
咽頭ぬぐい液または喀痰
・喀痰培養
3-4週間かかるため、実臨床では使用されない
・ペア血清
抗体検査法の凝集反応(PA)法、補体結合反応(CF)法
陽性基準は、ペア血清(2-4週間後)で4 倍以上の抗体価上昇、
または、単一血清で320倍以上(PA法)、64倍以上(CF法)の抗体価上昇
画像検査
・胸部レントゲン
病初期から、多発するスリガラス陰影、気道散布型の粒状陰影および小斑状陰影、中枢気管支壁の肥厚様像などが出現します
治療
・症状が軽い場合は対症療法のみでも治癒します。
・抗菌薬の第一選択薬はマクロライドです。
マクロライド投与後2-3日経っても解熱しない場合や酸素化が悪化する場合は、マクロライド耐性マイコプラズマによる感染症と考え、テトラサイクリン系薬(ドキシサイクリン/ミノサイクリン)、キノロン系薬に変更します。8歳未満の小児にはテトラサイクリン系(特にミノサイクリン)は歯牙着を色のリスクがあり、原則禁忌とされ、肺炎/重症例で抗菌薬を処方するにはキノロン系(トスフロキサシン)を処方します。8歳以上にはテトラサイクリン系(ドキシサイクリン/ミノサイクリン)を処方します。(ミノサイクリンと比べ、ドキシサイクリンは、短期であれば歯牙着色は起きにくいとされ、マクロライドが奏功しない場合には8歳未満での選択肢の1つになります。ただし、国内では剤型が錠剤のみ)
臨床では、診断時には、マイコプラズマかそうでないか、マイコプラズマが感受性菌か耐性菌か、わからないことが多いです。そのため、投薬後も「受診後3日たっても症状が改善しない時」「発熱が持続する時」「呼吸困難感が強くなった時」など、次の受診の目安を伝えることが大切です。症状の経過を診ながら治療する必要がある事を、患者と保護者に説明することが重要です。
【感染症委員会からのメッセージ】
マイコプラズマ感染症は、抗菌薬なしで自然治癒することの多く、「肺炎症例を見逃さない!」ということが重要となる感染症です。やみくもに抗菌薬を処方したり、検査を実施するのではなく、病歴や身体所見(肺外病変/聴診など)を丁寧な診察のもと、検査前に見極めることが必要になります。
潜伏期間
2-3週間です。流行している時期は、学校や家庭で広がりやすいです。感染経路は主に飛沫感染ですので、咳エチケット、マスク、換気など基本的な感染対策が有効です。飛沫が飛び、接触感染の可能性もありますので、手洗い、手指消毒も大事です。
児童の出席停止
マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法で「第3種感染症のその他の感染症」に指定されているため、急性期は出席停止です。明確な出席停止期間は定められてないため、主治医や校医の判断で周囲に感染の恐れがないと認めるまでが期間になります。
参考文献
1)Norisue Y, Tokuda Y, Koizumi M, Kishaba T, Miyagi S. Phasic characteristics of inspiratory crackles of bacterial and atypical pneumonia. Postgrad Med J. 2008 Aug;84(994):432-6. doi: 10.1136/pgmj.2007.067389. PMID: 18832405.
症状と所見
発熱、頭痛、倦怠感と鼻汁や痰を伴わない乾性咳嗽が特徴とされ、咳が長引くことがあります。しかし、幼児の場合には最初から湿性咳嗽となることが多くなります。青年においても後期には湿性咳嗽になる傾向もありますが、細菌感染症の合併や頑固な咳が続く場合には、百日咳の可能性も検討します。また、マイコプラズマ感染症は、中耳炎や扁桃炎、皮疹(特に多形滲出性紅斑)など肺外病変があることが多く、上記の症状以外にこれらがある場合には、疑う必要があります。
マイコプラズマ肺炎の聴診は、一般的には細菌性肺炎の湿性ラ音のような特徴的な呼吸音を聴取しない(6割ほどで異常呼吸音そのものがない)のが特徴ですが、3割ほどでlate inspiratory cracklesが聴取されることがありますので、特に流行期における聴診(特に背部)は鑑別診断に役立ちます。1)
臨床での検査
感度/特異度ともにLAMP法/リアルタイムPCR法がもっとも信頼できます(ただし、外注の場合には数日かかります)。イムノクロマトグラフィー法(迅速マイコプラズマ抗原定性検査)も可能ですが、感度が高くないため、症状/身体所見などで検査前確率を見極めたうえで実施し、その結果に対しては総合的に判断することが必要になります。
・急性期の診断法(実際の臨床での検査)
イムノクロマトグラフィー法(迅速マイコプラズマ抗原定性検査)
咽頭ぬぐい液を使用、検査時間約15分
LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法
咽頭ぬぐい液または喀痰
リアルタイムPCR法(マクロライド耐性遺伝子変異の検出可)
咽頭ぬぐい液または喀痰
・喀痰培養
3-4週間かかるため、実臨床では使用されない
・ペア血清
抗体検査法の凝集反応(PA)法、補体結合反応(CF)法
陽性基準は、ペア血清(2-4週間後)で4 倍以上の抗体価上昇、
または、単一血清で320倍以上(PA法)、64倍以上(CF法)の抗体価上昇
画像検査
・胸部レントゲン
病初期から、多発するスリガラス陰影、気道散布型の粒状陰影および小斑状陰影、中枢気管支壁の肥厚様像などが出現します
治療
・症状が軽い場合は対症療法のみでも治癒します。
・抗菌薬の第一選択薬はマクロライドです。
マクロライド投与後2-3日経っても解熱しない場合や酸素化が悪化する場合は、マクロライド耐性マイコプラズマによる感染症と考え、テトラサイクリン系薬(ドキシサイクリン/ミノサイクリン)、キノロン系薬に変更します。8歳未満の小児にはテトラサイクリン系(特にミノサイクリン)は歯牙着を色のリスクがあり、原則禁忌とされ、肺炎/重症例で抗菌薬を処方するにはキノロン系(トスフロキサシン)を処方します。8歳以上にはテトラサイクリン系(ドキシサイクリン/ミノサイクリン)を処方します。(ミノサイクリンと比べ、ドキシサイクリンは、短期であれば歯牙着色は起きにくいとされ、マクロライドが奏功しない場合には8歳未満での選択肢の1つになります。ただし、国内では剤型が錠剤のみ)
臨床では、診断時には、マイコプラズマかそうでないか、マイコプラズマが感受性菌か耐性菌か、わからないことが多いです。そのため、投薬後も「受診後3日たっても症状が改善しない時」「発熱が持続する時」「呼吸困難感が強くなった時」など、次の受診の目安を伝えることが大切です。症状の経過を診ながら治療する必要がある事を、患者と保護者に説明することが重要です。
【感染症委員会からのメッセージ】
マイコプラズマ感染症は、抗菌薬なしで自然治癒することの多く、「肺炎症例を見逃さない!」ということが重要となる感染症です。やみくもに抗菌薬を処方したり、検査を実施するのではなく、病歴や身体所見(肺外病変/聴診など)を丁寧な診察のもと、検査前に見極めることが必要になります。
潜伏期間
2-3週間です。流行している時期は、学校や家庭で広がりやすいです。感染経路は主に飛沫感染ですので、咳エチケット、マスク、換気など基本的な感染対策が有効です。飛沫が飛び、接触感染の可能性もありますので、手洗い、手指消毒も大事です。
児童の出席停止
マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法で「第3種感染症のその他の感染症」に指定されているため、急性期は出席停止です。明確な出席停止期間は定められてないため、主治医や校医の判断で周囲に感染の恐れがないと認めるまでが期間になります。
参考文献
1)Norisue Y, Tokuda Y, Koizumi M, Kishaba T, Miyagi S. Phasic characteristics of inspiratory crackles of bacterial and atypical pneumonia. Postgrad Med J. 2008 Aug;84(994):432-6. doi: 10.1136/pgmj.2007.067389. PMID: 18832405.
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