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2025-09-11

百日咳が増えてきていると聞きましたが、どんな微生物が原因で、どんな症状の場合に疑えばいいのでしょうか。

【回答】

百日咳の原因の病原体

グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)
一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)

百日咳菌の感染経路

鼻・咽頭(のど)や気道からの、分泌物による飛沫感染、および接触感染

潜伏期間(病原体に感染してから発症するまでの期間)

百日咳の潜伏期間は、約5日から10日間(最長で3週間)

感染力(R0:基本再生産数)

百日咳のR0は16-21。
1人で周囲の16~21人に感染させる力がある感染症です。麻しんと同程度で非常に強い感染力があります。

<基本再生産数とは>
集団にいる全ての人が感染症にかかる可能性を持った状態で、1人の感染者が何人に感染させうるかを示す指標です。
数が大きいほど感染力が強いことを意味します。

発症しやすい年齢層と特徴

小児が中心です。
特に生後6カ月未満の乳児が感染すると重症になりやすく、死くなる者の大半を占めます。

百日咳含有のワクチン(3種・4種・5種混合ワクチン)を接種したことのない人や、ワクチン接種後の年数が経過しワクチンの免疫が減衰した人(追加接種(4回目)まで接種を完了していると6~12歳以降)での発病がみられることが多く、10歳代の感染が多いです。

成人では典型的な咳がないことがあり、軽症でも菌の排出があるため、ワクチン未接種の新生児・乳児に感染させる感染源となるため注意が必要です。

症状

典型的、古典的な症状の百日咳は、予防接種を受けていない(特に生後6か月未満)や接種回数が少ない乳幼児にのみ起こります。

百日咳含有ワクチンの定期接種(通常4回接種:初回3回、1期追加1回)を受けていても、抗体が減少すると感染し発症ます。ワクチン接種歴のある5~15歳や成人では,古典的な百日咳の症状が現れにくいことが多いため診断が難しく、百日咳を疑って検査しなければ診断できません。そのため「かぜ」「咳喘息」や「マイコプラズマ肺炎」の疑いと診断されている症例の中に、「百日咳」が紛れ込んでいる可能性があります。成人では、重症化することは稀で、3分の1が軽度の咳が長引く症状で、発作性の咳嗽は非常に少ないです。

成人に百日咳を診断する意義

成人の百日咳は重症化しにくく自然に治癒することがほとんどですが、周囲や同居のワクチン未接種の乳幼児に感染させるリスクが非常に高いです。乳幼児が感染すると重症になり、入院や死亡リスクを高めるため、注意が必要です。
百日咳の患者が、ワクチン未接種の同居家族に感染させる可能性は80~90%と非常に高いとされています。

どのような時に百日咳を疑うか?

このように、百日咳含有のワクチン接種歴のある小児や成人には、典型的な百日咳の症状が出ないことが多いです。では、実際のプライマリケア診療の診療では、どんな時に百日咳を疑えばいいのでしょうか?

以下の①~③のいずれかの症状の患者の13~32%が百日咳であったとことが複数の研究で示されています。高熱がなく、家族や周囲に百日咳と診断されている人や疑われている人がいれば、百日咳の検査をすることを検討します。

① 咳のみ/咳が優位に強い症状で、1週間経過しても咳が悪化している
② 一呼吸の間に爆発的・連続的な咳を起こす(顔面紅潮、涙ぐむ眼などを伴う)
③ 咳の後に嘔吐する

百日咳の経過(病期分類)

発症後、約2~3週間単位の病気に分類されます。

①Phase1:カタル期(約1~2(3)週間持続)

約5日から10日間(最長で3週間)の潜伏期間の後に、かぜ症状で始まり、徐々に咳の回数/程度が悪化していきます。

②Phase2:痙咳期(約2~3週間持続)

特徴的な発作性けいれん性の咳(痙咳)をします。
短い咳が連続的に起こり(スタッカート)、息を吸う時に笛音のような音が出たり(笛声:whoop)。
そして、この様な咳嗽発作がくり返し(レプリーゼ)、しばしば嘔吐を伴います。

発熱はないか、あっても微熱程度です。
息を詰めて咳をするため、顔面の静脈の圧が上昇し、顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもあります。非発作時は無症状ですが、何らかの刺激が加わると咳の発作が誘発されます。また、咳の発作は夜間に多い傾向にあります。

年齢が小さいほど症状は非定型的です。乳児期早期は特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがあります。

③Phase3:回復期(2~4週間)

激しい発作は次第に減り、2~3週間でなくなりますが、時々忘れた頃に発作性の咳が出ます。

全経過約2~3カ月で回復します。

注)成人やワクチン接種済者は、病期がはっきりと区別できないことが多いです。

  • https://www.jpca-infection.com/pics/news/news-98-1.png

参考文献

1)Hewlett EL et,al.  Clinical practice. Pertussis--not just for kids. N Engl J Med. 2005 Mar 24;352(12):1215-22. 

2)Miyashita N et,al. Diagnostic value of symptoms and laboratory data for pertussis in adolescent and adult patients. BMC Infect Dis. 2013 Mar 11;13:129. 

3)永田理希 著.Phaseで見極める!小児と成人の風邪の診かた&治し方日本医事新報社.2021.

4)国立健康機器管理研究機構(JIHS)感染症情報サイト
  https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/010/pertussis.html

5)こどもとおとなのワクチンサイト:一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会ワクチンチーム
  https://www.vaccine4all.jp/

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